最高裁判所第二小法廷 昭和43年(オ)632号 判決 1969年7月04日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人小松幸雄の上告理由について。
原審の確定するところによれば、上告人は、本件寄託契約に基づき訴外協和倉庫株式会社に対し本件倉荷証券と引替に本件寄託物の返還を求める権利(引渡請求権)を有するというのであり、一方、被上告人は、右訴外会社を債務者として、右寄託物に対する同会社の占有を解いてこれを執行官に保管せしめる旨の仮処分を執行したというのである。しからば、右仮処分の執行により、右訴外会社は右寄託物を上告人に引渡すことをえず、その結果、上告人が右会社に対して前記引渡請求権を行使しえなくなることは所論のとおりであり、本件仮処分の執行により、上告人が右訴外会社に対して有する右引渡請求権自体を侵害するものとはいえないとした原判示は、その措辞必ずしも当をえたものとはいい難い。しかしながら、寄託物について倉荷証券が発行されている場合であつても、寄託者が倉庫業者に対して有する右引渡請求権は、単に右訴外会社に対し寄託物の引渡を求めうる債権的請求権にほかならないから、直ちにこれをもつて第三者に対抗しうるものとはいい難い。それ故、本件の場合、上告人としては、右物件に対して所有権その他右仮処分債権者たる被上告人に対し対抗しうるなんらかの権利を主張しないかぎり、前記の如き引渡請求権のみに基づいて本件仮処分の執行の排除を求めることはできないものというべきであり、前示の主張を欠く上告人の本訴請求は、主張自体失当として棄却を免れない。したがつて、これと結論を同じくする原判決は、結局正当であつて、本件上告はこれを棄却すべきものである。
よつて、民訴法三九六条、三八四条二項、四〇一条、九五条、八九条を適用し、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)